大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(そ)1号 決定

主文

請求人平野博之に対し金二四一万四〇〇〇円を、同村松和行に対し金五七四万六〇〇〇円を、同井上清志に対し金二九四万四四〇〇円を、同前原和夫に対し金五七八万円をそれぞれ交付する。

理由

一  本件各請求の趣旨及びその理由の要旨は、「請求人らは、請求人村松及び同井上に対する各爆発物取締罰則違反及び各窃盗、同平野及び同前原に対する各爆発物取締罰則違反各被告事件のうち、右各爆発物取締罰則違反被告事件について、昭和五九年三月二二日東京地方裁判所において、いずれも無罪の判決を受け、同判決はそれぞれ確定したが、いずれも右各爆発物取締罰則違反の事実で、請求人平野については昭和四八年三月二五日から昭和四九年三月一四日までの三五五日間、同村松については昭和四八年一月二二日から昭和五一年二月三日までの一一〇八日間(一〇七七日とあるのは誤記と認める。)、同井上については昭和四八年二月二〇日から昭和四九年一〇月二五日までの六一三日間、同前原については昭和四八年一月一七日から昭和五〇年五月一六日までの八五〇日間それぞれ未決の抑留、拘禁を受けたので、法の許容する最高額の補償をそれぞれ求める。」というものである。

二  請求人らに対する前記各被告事件記録によると、

1  請求人平野は、昭和四八年三月二五日爆発物取締罰則違反の被疑事実で逮捕され、同月二七日同じ被疑事実により勾留され(勾留期間延長)、同年四月一四日勾留のまま右と同じ事実について東京地方裁判所に起訴され(同年合(わ)第一四二号)、昭和四九年三月一四日保釈されるまで勾留されていたこと

2  請求人村松は、昭和四七年一〇月二九日窃盗の被疑事実により逮捕され、同月三一日同旨の被疑事実により勾留され(勾留期間延長)、同年一一月一八日勾留のまま右と同じ事実について東京地方裁判所に起訴され、同年一二月二七日保釈されるまで勾留されていたこと、さらに同請求人は、爆発物取締罰則違反の各被疑事実により昭和四八年一月二二日(同第五一号)、同年二月一二日(同第八七号)それぞれ逮捕され、同年一月二四日、同年二月一五日それぞれ右と同じ各被疑事実により勾留され(勾留期間延長)、同月一二日、同年三月六日それぞれ右と同じ各事実について東京地方裁判所に起訴され、昭和五一年二月三日保釈されるまで勾留されていたこと

3  請求人井上は、昭和四八年二月九日窃盗の被疑事実により逮捕され、同月一一日同じ被疑事実により勾留され、同月一九日勾留のまま右と同じ事実について東京地方裁判所に起訴され、同年一一月一八日(勾留不更新により同月一九日以降勾留失効)まで勾留されていたこと、さらに同請求人は、爆発物取締罰則違反の各被疑事実により同年二月二〇日(同第一〇〇号)、同年三月一三日(同第一三〇号)それぞれ逮捕され、同年二月二二日、同年三月一六日それぞれ右と同じ各被疑事実により勾留され(勾留期間延長)、同月一〇日、同年四月四日それぞれ右と同じ各事実について東京地方裁判所に起訴され、昭和四九年一〇月二五日保釈されるまで勾留されていたこと

4  請求人前原は、昭和四八年一月一七日爆発物取締罰則違反の被疑事実により逮捕され、同月二〇日同じ被疑事実により勾留され(勾留期間延長)、同年二月八日勾留のまま同じ事実について東京地方裁判所に起訴され(同第四五号)、昭和五〇年五月一六日保釈されるまで勾留されていたこと

5  昭和五九年三月二二日東京地方裁判所は、請求人らに対する前記各被告事件及び保釈中若しくは別件勾留中で起訴された窃盗、爆発物取締罰則違反各被告事件のうち、請求人村松及び同井上に対する窃盗の各訴因について、後記6のとおり有罪としたほか、請求人らに対する爆発物取締罰則違反の各訴因について、いずれも無罪とする判決をなし、同判決に対しては検察官から控訴されていたが、昭和六〇年一二月二八日検察官が右控訴を取り下げたため、右判決は即日確定したこと

6  右判決の有罪部分は、前記窃盗の各訴因について、請求人村松が懲役一〇月・執行猶予二年、同井上が懲役六月・執行猶予二年で、右両名の各刑に対しいずれも未決勾留日数中各刑期に満つるまでの日数を算入するという内容のものであること

がそれぞれ認められる。

三  以上の各事実をもとに以下検討する。

1  まず、刑事補償の対象となる期間であるが、請求人村松及び同井上については、窃盗の訴因について有罪の裁判を受け、それぞれその刑期に満つるまでの未決勾留日数がその刑に算入されているのであるから、右算入された日数は同人らが抑留、拘禁されていた未決勾留期間から控除されるべきである(最決昭和五五年一二月九日、刑集三四巻七号五三五頁参照)。

2  次に、算入される未決勾留の日数(懲役一〇月ないし同六月)を何日とするかであるが、起算日を何月からとして計算するかによりその日数に差異が生じ、一〇月の場合は最大三〇六日から最少三〇三日まで、六月の場合は同じく一八四日から一八一日までの範囲内のいずれかということになるが、現実の執行においては、右いずれの日数にもなり得る可能性があるのであるから、請求人に最も有利な計算方法、即ち、未決算入日数が最少で刑事補償の対象となる日数が最大となる計算方法にしたがうこととし、その日数を請求人村松については三〇三日、同井上については一八一日とする。

3  そこで、右にしたがって請求人らの未決の抑留、拘禁の日数を計算すると、請求人平野は三五五日、同村松は八四五日、同井上は四三三日及び同前原は八五〇日となる(請求人村松及び同井上の前記1の未決算入は、窃盗による勾留日数のうち起訴後の窃盗のみによる勾留日数をまず算入し、次いで爆発物取締罰則違反による勾留日数(請求人井上については窃盗の勾留と一部競合する。)を算入するものとして計算上取り扱う。)。

4  右の各期間について刑事補償法に基づく補償をする必要があると認められ、補償金額については、事案の性質、拘束期間の長短、各請求人の精神的、物質的損失その他一切の事情を考慮すると、各請求人に対し、いずれも一日金六八〇〇円の割合により補償するのが相当と認められる。

四  したがって、請求人らに対する刑事補償金として、請求人平野に対し金二四一万四〇〇〇円を、同村松に対し金五七四万六〇〇〇円を、同井上に対し金二九四万四四〇〇円を、同前原に対し金五七八万円をそれぞれ交付することとする。

よって、刑事補償法一六条前段により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮嶋英世 裁判官 三好幹夫 石井浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例